栃木県・群馬県の民謡~八木節
この歌は、栃木県、群馬県を中心に歌い、踊られてきた踊り唄です。「チャカポコチャカポコ」という賑やかな鳴物で奏される囃子を挟み、樽を叩きながらキレキレに歌われるダイナミックな演目で知られています。

■曲の背景
もとは越後の新保広大寺

《八木節》の「やぎ」とは、栃木県足利市の日光例幣使街道、八木宿(足利市福居町)の地名です。そして歌の源流は新潟県十日町市の《新保広大寺》であったといわれています。
十日町市にある広大寺とは曹洞宗のお寺で、竹内によれば、信濃川中州の耕作権を巡る土地争いが起こり、農民同士の争いがやがて広大寺と縮問屋・最上屋との争いとなり、広大寺の和尚・白岩亮端の悪口唄を作って歌わせたものが《新保広大寺》という歌になったといいます[竹内2018:405-406]。
これが越後瞽女や太神楽の神楽師によって広まりました。特に、物語などを延々と歌う長編の口説が「新保広大寺くずし」「広大寺口説」として流行り、各地に運ばれ《津軽じょんがら節》(青森県)、《道南口説》(北海道)、《新川古代神》(富山県)、《どっさり節》(島根県)等、形を変えながら定着しました。《八木節》もこの1つであったといわれています。


関東に伝わった広大寺口説から八木節へ
越後の「広大寺口説」が関東に伝わり、日光例幣使街道沿いに歌われました。特に、歌の中心となる口説の部分は77調の文句を繰り返していくものです。そして、新潟から出稼ぎに来ていた人々が、新潟名物の樽砧を思わせる、樽を叩く技を取り入れて歌っていたのだそうです。
こうした樽叩きの盆踊り唄が各地に定着します。そして、《八木節》を広めることになった音頭取りが、栃木県の梁田郡堀込村(現足利市)出身の渡辺源太郎(明治5年(1872)~昭和18年(1943))、通称堀込源太です。彼は、馬車曳きの朝倉の清三から唄を習い、やがて節を整えて、大正3年(1914)にレコード吹込みをし、広く知られるようになりました。なお、当初は特別な楽曲名がなく、堀込源太がレコーディングの時に《源太節》にしようとしたところ、レコード会社からは個人名の盆踊り唄では売れないとして反対されたといい、立ち会っていた塚越勝次郎が、八木宿で流行った歌だということで《八木節》にしようと提案、以来《八木節》として定着しました[福田1993:85]。
こうして、人気の音頭取りとなった堀込源太により《八木節》が広まりましたが、それ以外の地域でも《赤椀節》(群馬県伊勢崎市)《横樽音頭》(同県佐波郡玉村町)《木崎音頭》(同県太田市)等、同じ《広大寺口説》系の音頭が地域ごとの歌い方で歌われています。
また、《八木節》には物語でもある外題として「鈴木主水」「先代萩政岡忠義」「五郎正宗孝子伝」「紺屋高尾」「継子三次」など古くから知られたものがあります。「国定忠治」が作られると、特に人気が出ました。このように、堀込源太は日光例幣使街道などで上州まで仕事をしながら歌っていましたし、上州生まれの国定忠治の人気も出てきましたので、上州でも広く《八木節》が歌われるようになりました。堀込源太の出身が栃木ということで栃木県民謡と考えられがちですが、群馬と栃木の両方の民謡ととらえられるようになりました。


■音楽的な要素
曲の分類

踊り唄


演奏スタイル

樽(打面を鏡、枠を縁という)
 ※歌い手が歌いながら叩きます。四斗樽が多く使われます。
太鼓
 ※小太鼓:締太鼓/大太鼓:宮太鼓を1人で打ちます。

 [二丁打ち]1人で大皮・小皮を打つ場合。
 [一丁打ち]複数人がいる場合、大皮・小皮をそれぞれ1人で打つ場合。


 ※七孔の篠笛


拍子
 
2拍子

音組織/音域
民謡音階/1オクーブと4度

曲の構造/特徴
①形式は、歌い出しの音頭と、歌い止めの音頭があり、その間に「新保広大寺」の特徴でもある口説の部分が、間奏を伴いながら延々と挿入されるパターンです。
②歌い出しと歌い止めの終わりの部分には「オオイサネー」がつきます。これは、源太が馬方であったことから「黒馬(あお)勇め」の変化したものというエピソードもありますが、「新保広大寺」の特徴である節尻の「サーエー」の変化とみられます。
③歌の旋律は、歌い手の個性や詞の抑揚やリズムによって変化します。
④笛の旋律は基本的なメロディに、演奏者の装飾が入ります。
⑤民俗音楽に一般的にみられるとおり、笛の調子と歌の調子とは必ずしも一致しません。


■評価例

[知識・技能]
①2拍子で賑やかな雰囲気のリズムを聴き取り、踊りの歌の雰囲気につながっていることに気付いている。
[思考・判断・表現]
①笛、太鼓、鼓、鉦による囃子パート(前奏・間奏・後奏)パートと歌(音頭)とに分かれて歌われている構成を聴き取り、曲想の変化や構成を感じ取りながら、曲全体を味わって聴いている。
②外題のストーリーを知り、口説部分の語るような旋律、唱法の面白さを感じ取りながら、聴き取ったことと感じ取ったことの関りについて考えている。
[主体的に学習に取り組む態度]
①栃木県、群馬県だけではなく日本中に広く知られるようになった《八木節》の外題のストーリーを聴かせたり賑やかな踊りに合わせられたりした歌であったことなどの特徴などに興味をもち、音楽活動を楽しみながら主体的・協働的に学習に取り組もうとしている。


有料部分には《八木節》の歌詞、楽譜等が掲載されています