学生時代に民謡や獅子舞のハヤシを楽譜に採る作業にチャレンジしたことがあった。当LABOのために、少しずつ民謡を中心に楽譜にしてみようと、再びチャレンジし始めた。
ここでの採譜は、研究目的のeticな採譜を目ざすものではない(そもそも、そのような能力は管理人にはない…)。どちらかといえば、emicな採譜になると思われるが、見ていただける方々に、広く民謡の旋律の骨格を覚えてもらえるような楽譜にすることを第一に考えている。
特に頭を悩ませるのがコブシ。追分節等に見られるようなメリスマティックな民謡については、厳密な楽譜化は大変な労力。それに、歌う方によって、または歌う歌詞、気分等によってもコブシが変わってくるのはよく知られているが、できるだけ旋律の骨格から地元らしいコブシを工夫できるのではないかと考えられる。
歌のパートの音域について
民謡歌手が民謡を歌う場合、かなりハイトーンで声を張る。日本民謡の古い録音を聴くと、名人の演唱が多いが、もともと日本人の声は高いのか!?と思わされるほど高音で歌われている。しかし、管理人は児童・生徒が歌えればいいな…という願いをもって、できるだけ一点Ⅽから二点Ⅽの間を中心に歌えるような「調」にしたいと考えた.
学校での歌唱について、小学校学習指導要領では、かつて「頭声的発声で歌う」とされていたものが、平成10年告示から「自然で無理のない発声」というキーワードになってきた。一般的に児童の声は音程が上がっていくと声区が胸声から頭声になっていくのであるが、学習指導要領からは「頭声的発声」の文字が消えたのである。
中学校では「曲種に応じた発声」という記述が現行の中学校学習指導要領に見られる。また、「我が国の伝統的な歌唱」という記述からも分かるように、伝統音楽の扱い、それも「鑑賞」だけでなく「表現」でも扱わなければならないことが示されている。
児童・生徒が頭声的な発声ではなく胸声で歌うこと、つまり地声で歌うことが民謡らしさにつながる。すると、合唱のスキルアップ訓練のように高音で民謡を歌うと、やはりコーラスの声のようになりがちで、民謡らしい声、つまり中学校学習指導要領でいう「曲種に応じた発声」で歌うためには、あまりハイトーンで歌うことは避けたほうがよさそうである。特に、中学生男子においては変声期を迎えることも考慮しなければならない。
それよりも、今音楽科で求められているのは「思いや意図」をもって歌うことということなのである。
胸声のまま高音を出すには、一点Ⅽから二点Ⅽの間が適切のようである。もちろん曲によってはオクターブより上下する場合もあるが、十分に曲を分析して、あまり音域が広くないこと、F、G、A、Bあたりの音域を胸声で歌えるようなものを研究して、児童・生徒が歌うのに本当に適当であるかについて教材研究をする必要があると考えられる。
難しいことはともかく、小学校学習指導要領にある通り「自然で無理のない声」で、子供たちが民謡を歌ってくれるといいなと願っている。
三味線パートの記譜について
伝統的に一の絃の開放音をBに合わせて記譜することが多いため、#3つの一見Adurのような調になっている。実際に演奏する場合は、歌の調に合わせて調弦することになる。
また調弦の「本調子」「二上り」「三下り」等については、三味線パートの譜表にそのまま記した。スクイ、ハジキといった三味線特有の奏法の表示は省かせていただいた。なお、三味線の調弦名の「二上り(にあがり)」、「三下り(さんさがり)」は、それぞれ伝統的な表記にしてある。
【付記】
歌と唄
習慣的に民謡などをうたう(sing)という場合、「唄う」と書かれることが多く、曲名としてのうた(song)も「唄」と書くことが多かったと思われる。ここでは子供たちの活動を考えて、うたう「活動」については「歌う」を使用、曲名として「唄」が使われる場合は、「歌」ではなく「唄」と表記した(「草刈唄」「馬子唄」等)。
唄の順番
民謡の場合、一つ、二つ…と続く数え唄は別として、歌う順番が決まっていないことが多い。必ずいちばん初めに歌われる歌詞や、最後に歌うことが決まっているケースもあるが、それら以外は特に決まりはない。吹き込まれた音源によって固定されるケースもあるが、いろいろな歌詞で歌ってみるのも楽しいと思う。
〽の意味
日本語で歌の初めに置かれる記号で、「庵点(いおりてん)」と呼ばれる。民謡だけでなく邦楽の歌詞には使われることが多い。
ただし、日本の歌の歌詞は縦書きが多いのであるが、Web上では横書きにせざるを得ないため、
〽めでためでたの 若松様は…
のような記述にせざるを得ない。